最低賃金と企業経営(医療機関、介護保険サービス、障害福祉サービス、保育所等)

さて、いよいよ来月から岐阜県は最低賃金が 1,065円 となります。

岐阜県の最低賃金過去最大1,065円へ


昨年は1,001円となって1,000円の大台を超えましたが、今年はさらなる上げ幅で、政府が言っている最低賃金1,500円の時代がもうすぐそばに来ていると思います。

我々企業経営者は、

「あぁ、今年も上がったな。」

ではなく、真剣に5年後、10年後を見据えた経営戦略の見直しが必要になります。


今回、岐阜県の最低賃金が上がるのがなんと10月18日からと中途半端。

時間給の職員で基本給が上がる方については、まさか10月18日から昇給という雇用契約をする企業はあまりないだろうと思いつつも、普通にそのように計算する企業も出てくるだろうと思います。

また、ここにきて、扶養の範囲内で働きたい層に関しては、よくわからない現象が発生しつつあります。

週20時間以上の雇用で雇用保険への加入、週30時間以上の雇用で社会保険への加入(従業員数51人以上の企業は週20時間以上)が義務付けられている訳ですが、例えば月80時間ぐらい勤務して、収入を扶養の範囲内に抑えていた層について、どうなるでしょうか。

時間給が1,100円で80時間勤務して月額88,000円に抑えていた職員で、雇用保険に入っていた場合、最低賃金の上昇によりベースアップが行われ、ほかの1,001円の職員が1,065円になるのだからということで、1,170円に昇給してもらったとしましょう。

しかし月額88,000円に抑えたいという話になりますと、

 88,000円÷1,170円≒75.2136752・・・=75時間

しか勤務できなくなり、雇用保険の資格を喪失します。

(そもそも従業員数51人以上の企業だった場合は社会保険に加入していたはずがこれも資格喪失か)

ニュース等でよく報道されていますが、扶養の制度を同時に改正しないと全然ダメだというのがこの話の一部でもあり、いわゆる働き控えが発生し、企業にとってはシフトを組むだけでもさらなる苦労が待っており、結局1人非常勤雇用をしないといけなくなるなど、最低賃金の上昇によって社会保険、雇用保険にも影響がでることになります。

扶養への逆戻り現象ですね。

これ、仮に税制が今と変わらず、時間給が1,500円になった場合はどうなるでしょうか。

 88,000円÷1,500円≒58.6666・・・=58時間

なんと今までと比較して22時間も勤務時間が減ります。

例えば176時間で常勤換算1.0としているような事業ですと、22時間は0.125、つまり0.2減少してしまうようなイメージですね。

昨年から2年連続50円以上、最低賃金が上がっていますので、今後も50円程度上昇していくと仮定した場合、

令和   8年 1,115円(診療報酬改定)

令和   9年 1,165円(介護保険・障害福祉サービス報酬改定)

令和10年 1,215円

令和11年 1,265円

令和12年 1,315円

令和13年 1,365円

令和14年 1,415円

令和15年 1,465円

令和16年 1,515円

ということで、あと9年ほどで最低賃金1,500円の時代がくるのかなと思います。

東京はすでに最低賃金1,226円ですので、岐阜の2年先を行っていますね。

パーセンテージで考えると、令和16年には、令和7年の1,065円から142%増!

私の会社、9年後の年商を1.4倍にしないと維持すら困難ですね。

委託に切り替えるにもコンプライアンス上の限界もあり、ますます雇用のハードルが上がっていきます。

我々コンサルティング会社は営業努力でなんとか目標を追いかけることができますが、いわゆる公的保険サービスは国が単価を定める訳ですので、ちゃんとこの上昇に見合ったプラス改定が必要になってきます。

保育所等の児童系サービスは毎年改定があり、人事院勧告分など毎年の措置がありますので、単年度で考えていけば追いつけますが、医療は2年、介護・障害は3年スパンで考える訳ですので、令和9年4月改定(実質は入金ベースで令和9年6月)まで、果たしてみんな耐えることができるのか、中小零細企業にとっては切実な問題になります。

規模感の話で、ごくごく小さい規模であれば金額も小さく、運転資金の調達や市場からの撤退は案外身軽な訳ですが、規模が中堅、大手になってきますと、ボディブローのように響いてくると思われ、より慎重なキャッシュフロー経営が求められると考えております。

日本脱出を考える経営者もどんどん増えるでしょう。


しかしこの最低賃金の問題、就労継続支援A型事業所にとってはもうとんでもないハードルになります。

良質でハイスコアを維持している就労継続支援A型事業所であっても、この上げ幅を想定すると、いち早く撤退するか、就労継続支援B型への転換を考える必要が生じます。

就労継続支援A型事業所そのものの制度改正をしないと、より一層事業所数が減少し、雇用をしてもらえなくなる障害者がさらに増えます。

法定雇用率も2年に1回ほどですがジワジワと上がっており、障害者雇用にも力を入れていかなければなりません。

就労選択支援も始まります。(49歳以下の就労未経験者に義務付け)


介護保険サービスの中でも真の在宅、訪問介護などはもう維持すら困難な現状ですが、さらに追い打ちがかかると思います。

有料老人ホーム併設の訪問介護の財務データをもとに、2000年から在宅でがんばっている老舗企業をないがしろにしている、今の政策には甚だ疑問です。


放課後等デイサービスの児童指導員等加配加算に関するローカルルールにも辟易します。

(ある市町村は日ごとに算定する、しないを選択できるが、ある都道府県は週ごとに算定するかしないか判断されてしまう。1日でも無理なら1か月丸ごと算定できない自治体もあり。)

こうした話も人員配置や労働分配率の問題ですので、やはり最低賃金と無縁ではございません。


これからの医療・福祉経営には、複数法人を活用した合法的な人員配置と法定福利費の節約、従業員の手取り収入の増額を図る取り組みが不可欠ではないかと考えます。

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