企業主導型保育事業の年度完了報告、消費税仕入控除税額報告および専門的財務監査の傾向等

 平成28年から制度が始まってあっという間に10年近く経過してきましたが、この10年で日本の保育・幼児教育分野の環境はかなり変化があったと感じます。

 地域差もありますが、認可保育所や幼稚園が認定こども園化していく流れは続いており、コロナの影響もありますが、出生数減少に伴い、年度はじめの0歳児受け入れ人数が顕著に減ってきている地域もありますし、相変わらずの勢いで、年度当初から満員でキャンセル待ちが大勢という保育所もあります。

 こうした環境下で、企業主導型保育事業もそれなりにバラエティに富んでおり、非常に人気があって常に満員になる園もあります。

 保育業界の将来展望の話は別の機会にして、今日は令和6年度の企業主導型保育事業の年度完了報告や令和5年度の消費税仕入控除税額報告、また5年に1回程度の頻度で行われている専門的財務監査に関して、雑感を書いてみたいと思います。


 まず企業主導型保育事業の年度完了報告の傾向ですが、毎年繰り返してきて、平成28年度から数えると令和6年度報告で9回目になりますが、ピムスでの報告にもだんだんと慣れてきているものの、毎年少しずつルールが変わっていますので、よくよく考えて運営をし、会計処理をしないといけません。

 特に業務委託費、雑費、手数料などの勘定科目については、きちんと内容を精査し、根拠となる契約書類、またその契約にいたった経緯なども証跡を残しておく必要があります。

 社会福祉法人であればこのあたりは普段から慣れ親しんでいる訳ですが、その他の法人格の企業については、なじみが薄い部分です。

 業務委託費については、あらかじめチェックリストに詳細を記述しなければならない等、なかなか大変になりました。

 企業主導型保育事業の会計に関する独特の処理といたしましては、本部人件費、法人税の按分計上、各種専門家(税理士、社労士、弁護士等)の顧問料の按分計上、資産の購入支出の計上、積立金の計上・取り崩し、雑収入等の実費収入等に対応する経費のマイナス調整(職員から控除する給食費の調整他)、自治体からの補助金を充てた費用のマイナス調整など、社会福祉法人の会計に似ているもののちょっと独特な取扱いもあったりと、会計の専門家でも苦慮するケースがあります。

 また、部門別会計をして保育園のみの採算を見るのは当たり前なのですが、部門別の貸借対照表の作成まではできないことも多く、その部分だけエクセルで作成しているケースがあったり、貸借対照表というよりはある意味簡素な財産目録のような性質の簡易貸借対照表を作成している園があったりと、資産、負債、純資産に関する帳票整理にも苦労するケースがあります。

 慣れてしまえばそれほど難しくないとは思うのですが、ゴールがわかっていて普段から会計処理をすることができているかが重要です。

 

 それから消費税仕入控除税額報告ですが、これについては1点問題提起したいこともありますが、なじみがない事務手続きで苦労する園がかなりあるかと思います。

企業主導型保育施設の運営を委託した場合の消費税の取扱い(令和6年10月1日現在、国税庁HPより)

 こちらの件についてはまた別の機会に。


 さて、消費税仕入控除税額報告の最新の積算内訳様式は非常にわかりやすくなりましたので、変な話ですがごまかしや大きな間違いはあぶりだすことができるような書式になっていて、ちゃんと専門家が考えて作成してくださったなと思います。

 初期のころは正直しっかりしていなかったので、結構な間違いもあっただろうと思います。

 そしてこの消費税仕入控除税額報告をする園については、当たり前ですが、年度完了報告でちゃんと税込の金額で報告しないと損します。

 法人の決算期が3月以外であったりすると、期中に税抜経理をしているともう大変ですね。

 4月から3月までの12か月で集計し直すと同時に、税抜から税込に直す必要があり、これが会計ソフトによっては全く対応できず、煩雑で大変となります。

 かといって期中から税込経理で月次決算をしていると、本業の売上が過大に見える等、決算予測がしづらくなる面もありますので、本当に大変ですね。

 

 こうした年度完了報告や消費税仕入控除税額報告の課題をクリアしたうえで、専門的財務監査を受けることができれば、ちゃんと勉強になりますし、日ごろの会計処理や運営方法に関して、正しくできているのかといった観点で監査を受けることができてとても価値のある時間になると思いますが、正直そんな気持ちになれない、緊張するという園の方が多いかもしれませんね。

 専門的財務監査では、会計処理はもちろんなのですが、その数字がなぜその金額になったのか、この勘定科目で処理したのは、いつ、だれが、どのように決済をしたからなのかというように、契約行為から支出までの流れの把握、説明ができるような準備が必要です。

 具体的にいえば、その取引先と契約したのはなぜか、いつ、だれがだれと話し合って決めたのか、そのルールは定められているか(経理規程等)といったことが論点となります。

 金額基準で一定の金額を超える支払については相見積もりをしているか等、会社が会社のルールを守って運営できているかといったことを確認するので、案外、経理処理の話だけではなかったりします。

 やはり焦点となるのは、親族間取引、関係会社との取引に関する価格の妥当性や、不動産賃貸借契約の家賃金額等の妥当性など、社会通念上、相当の金額であるか、その範囲に収まっているか、そんな観点から検討しているのか、確認を受けることになるでしょう。


 なんだか小難しい話になってしまいましたが、保育園も黒字経営が必要で、そのためには、こうした財務、経理の管理ができることもまた、重要であると考える今日この頃です。

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