社会保険適用促進手当と中小企業の経営

 さて、先月から最低賃金が上がり、消費税においてはインボイス制度が始まり、社会保険においてはこの社会保険適用促進手当の制度やこれに対応するキャリアアップ助成金制度が始まりと、ここにきて企業のバックオフィスの負担が非常に増えております。

 政府はそんな現場の事務部門の負担がどうだとか、そういった視点はないと思いますので、決めて伝えればよいだけで楽だろうと思いますが、これらの制度は障害福祉サービスにも無縁ではなく、ひいては福祉サービス事業者以外の業種の企業においても、とても負担が増える原因となっています。

 いろいろ批判すること等は置いておいて、とにかく変化に対応しなければなりませんので、従前から準備していたなら良いのですが、今からでも対応をしていくとよいだろうことなど、なんとなくですが語りたいと思います。

 まず、なんといっても社会保険の負担に関しては、従業員数について真剣に考えなければなりません。


●社会保険の適用が段階的に拡大(政府広報オンライン)

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202209/2.html


2022年10月からは従業員101人から500人までの企業については、週20時間以上の労働をする社員については社会保険加入が義務化されました。

(従業員数501人以上の企業は2016年から適用されています。また、ここでいう「従業員」の定義が「厚生年金保険の適用対象者」である点も要注意です。)


こうした規模感の企業は、たしかに負担は増えている訳ですが、まだまだ吸収できる体力があったり、逆に、

「うちは週20時間でも社会保険に入りますよ。」

という方法で求人をして、例えば正看護師のような時間単価が高いけれど労働時間が短いことがある職種領域においては、採用のポイントとしてアピールできるような面もあったわけです。

実際に現場レベルでは、

「同じ時間働いて社会保険入ってもらえるなら○○病院にしようかな」

というような看護師もいたので、そもそも世帯年収がある程度確保できている場合は手取りをそこまで気にしておらず、将来の保障のことを考えて大企業に集まっていくわけで、中小企業は優秀な人材を確保することがより困難になっていくわけです。


そもそも、中小企業の定義が中小企業庁と厚労省で異なってきているのも問題で、これにも対応しなくてはなりません。


●中小企業基本法の中小企業の定義と小規模企業の定義を教えてください。(中小企業庁)

https://www.chusho.meti.go.jp/faq/faq/faq01_teigi.htm#q1


中小企業庁は、会社の「資本金」か「従業員の数」のどちらか一方が条件に該当すれば「中小企業」であって「大企業」ではない、という判断です。

しかし厚労省の社会保険適用拡大に関しては、「従業員の数」のみで判断となるわけです。

ですので、福祉事業者は総じて資本金が少ないわりに従業員数が多く、例えば有料老人ホーム3施設運営していますというような場合だと、なかなか従業員数が増えてくるわけです。

それでも「厚生年金保険の適用対象者数」では101人までいかないという場合もあるかもしれませんが、2024年10月からは51人から100人の企業も週20時間以上労働者が社会保険に加入せざるを得なくなりますので、これを見越してあと1年で対応完了しておかないとまずいわけです。

特に従業員の数が多い会社で就労継続支援A型を経営していると、ご利用者はだいたい週20時間以上で雇用契約していて雇用保険に入っていると思いますが、来年10月からはご利用者にも社会保険加入義務が生じてくるんですよね。

障害厚生年金の受給額に関わってくるかなとは思いますし、マイナスばかりではありませんが、その日その日、その月の収入を得るために苦労をしながら就労支援を受けている層になりますので、最低賃金が上がり続けているとはいえ、手取りの確保が死活問題なわけで、こうした層のことを果たして親身になって考えてくれていたのだろうか、という点は疑問が残ります。

ご利用者によっては、

「社会保険に入らないといけないなら他のA型へ行きます。」

となってしまいますし、この割合が結構多いように肌で感じます。

複雑な年金制度を説明し、将来のためだからということをしっかりとご利用者、ご家族にも説明をしていく必要がありますが、制度のために苦労が増えます。

社会福祉法人なら、これもまだ余裕があるかもしれませんが、株式会社で障害福祉サービスのみを展開してきた企業にとっては厳しい状況です。

(就労継続支援A型はもともと定款の成約があるため、少数派ではありますが、影響を受ける企業、引いてはご利用者の人数は果たして分かっていてこの政策が通っているのか、疑問です。)


こうした、中小企業にとってはいわば逆風ともいえる政策に対して、どう対応していけばよいのか、ただ流れで経営していると費用負担だけが増えてしまい、最悪の場合は赤字転落、事業廃止といったことも起こりかねず、最終的に被害を受けるのはご利用者やそのご家族になります。

また、これは福祉サービス事業者だけの話ではなく、他の業種の中小企業にもそっくりそのまま当てはまります。

私たちはこれに対応しなければなりませんが、こうなるともう、少し前の話ですが、日本の大企業ですら資本金を大幅に減資をして、取扱いとして中小企業になったようなケースが多くあるので、こうしたことからも学んでいかないといけないわけです。

●大企業1,000社、減資で中小に衣替え(引用:産経新聞)

https://www.sankei.com/article/20210710-JOQQDNECFBLLPAURYTI47EXSYY/



こうした情勢下、中小企業においても以下のような戦略が考えられます。

① 年商5億円を目指すのではなく、年商5,000万円の会社を10社つくる

② できるかぎり1社あたりの従業員数を少なくするために、同じ業種であっても別法人化して会社数を増やす


ただ、このような方法は国もおそらくお見通しなわけで、そうなったらグループ会社の場合は合算して判断するというようなルールができてくるかもしれません。

グループ法人税制が実態としてどのぐらい適用されているのか分かりませんが、こうした税制にも対応する必要がありますので、より一層、部門別会計、独立採算、会社間のやりとりは極力0(ゼロ)に近くするという方法論が重要になってくると思われ、ますます勉強が必要になってきたと思います。


このあたりの経営的要素は非常に重要ですが、税金は税理士、社会保険は社労士、と別々に相談する企業が一般的であり、専門家同士の隙間に落ちてしまってメンテナンスができていなかったり、そもそも考慮できていないことも多々発生しているため、自分のコンサルティング領域の仕事の重要性がますます増してくると考えております。

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